同じような意味で使われることが多い「誹謗中傷」と「批判」。一見同じ意味の言葉だと思ってしまいますが、この二語は全く違った意味を持っているということをご存知でしょうか?
誹謗中傷や批判について正しい知識を持っていなければ、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もありますし、相手を傷つけてしまい損害賠償などを支払うことになるかもしれません。そのようなことにならないために、この記事では誹謗中傷と批判の違いについて詳しく解説していきます。
誹謗中傷の定義と例文
誹謗中傷と批判の違いを知るためには、最初にそれぞれの言葉の意味を理解しなければいけません。それでは先に、「誹謗中傷」の意味や例文などについて解説していきます。
誹謗中傷とは嫌がらせや悪口を発すること
「誹謗中傷」という言葉は「誹謗」と「中傷」という2つの言葉に分けることが出来ます。
「誹謗」は、他人への悪口を言ったり罵ったりする行為、「中傷」は根拠のない嘘やでたらめを述べる行為を意味しています。この2つの言葉は、本来はそれぞれ独立して使われていたのですが近年は「誹謗中傷」として合わさった言葉で広く認知されています。ここ数年でSNSの普及が急速に広まったこともあり、最近ではSNSでの誹謗中傷が多く見られます。
学校での「ネットいじめ」がニュースで取り上げられたこともあるため、誹謗中傷は若者の問題だと思ってしまいがちです。しかし、年齢問わずに誰でも加害者、被害者となりうるのが誹謗中傷行為だということを理解しておきましょう。
誹謗中傷は、デマや揶揄、罵倒、嫌がらせなどを含む言葉の暴力ですので、どのような理由があっても行ってはいけません。なお、法律では「誹謗中傷」行為そのものではなく、誹謗中傷が行われた結果が招いた権利侵害や業務妨害などが問われる可能性があります。
誹謗中傷とは?
誹謗中傷とは、虚像の情報や具体的な理由がない情報で特定の人物を罵り貶め、嫌がらせや悪口を発すること。
誹謗中傷は法律によって罰せられることも
「誹謗中傷を行ったとしてもバレることはないし、犯罪にはならない」と思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、誹謗中傷は内容によっては罪に問われることも考えられますし、多額の慰謝料や損害賠償を支払わなければならないかもしれません。
誹謗中傷を行った場合、刑事責任と民事責任を負うこととなるかもしれません。ただ書き込みを行っただけなのに」と思っていても取り返しのつかないこととなる可能性が非常に高いのです。
誹謗中傷の刑事責任
誹謗中傷の内容によって、どのような処罰を受けるのかは異なりますが以下のような罪に問われる可能性があります。「そんなつもりはなかった」と言い訳をしても許される行為ではありませんので、軽はずみな発言や書き込みは行わないようにしましょう。
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪
- 業務妨害罪
- 脅迫罪
①名誉毀損罪
名誉毀損とは、他人の名誉を傷つける行為のことで、刑法230条では「公然と事実を摘示し、他人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」と記載されています。
名誉毀損罪は嘘の内容を真実のように伝えた場合でも、その情報によって相手の名誉が傷つけられたと判断されれば名誉毀損となる可能性があります。
②侮辱罪
人を侮辱するような書き込みを公然と行うことは刑法231条の侮辱罪に該当する可能性があります。ここでいう「公然」とは、不特定多数の人が閲覧することができる状態のことを指しています。
しかし、少数に対する発言であったとしてもその場にいた人から話が伝わって外部にまで広がってしまったとなれば「公然」の要件を満たすことになります。
③業務妨害罪
誹謗中傷の書き込みなどによって、個人や企業、法人などの経済活動に関する能力の社会的評価を低下させた場合は業務妨害罪となる可能性があります。さらに、虚偽の風説の流布又は偽計を用いた業務妨害を偽計業務妨害、威力を用いた業務妨害を威力業務妨害といいます。
④脅迫罪
脅迫罪とは、相手を恐怖させる目的や目的を達成するために恐怖させ、他人の生命や身体、自由や名誉、財産に危害を加えることを告知して脅迫する行為のことです。脅迫罪は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます。
誹謗中傷の民事責任
誹謗中傷を行うと、刑事責任とは別に民事責任も果たさなくてはなりません。これは民法第709条を根拠として相手が受けた損害を賠償する責任を負うためです。これを「不法行為責任」と呼びます。
故意だったのか、過失であるのか関係なく、行為を行った人物は民事責任として以下の対応が求められる可能性があります。
- 損害賠償
- 名誉回復措置
①損害賠償
誹謗中傷行為を行った人物に対して、精神的苦痛に対する慰謝料や、誹謗中傷行為による売り上げの減少など実際に生じた損害について賠償することです。請求することができる慰謝料の相場は内容によって異なりますが、おおよその相場がこちらです。
- 名誉毀損 個人の場合10〜50万円、事業主の場合50〜100万円
- 侮辱 1〜10万円
- プライバシー侵害 10〜50万円
高額な慰謝料を支払った例
誹謗中傷が原因で慰謝料を支払った例をご紹介します。
茨城県の常磐自動車道で昨年8月に起きたあおり運転事件を巡り、容疑者の車に同乗していた「ガラケー女」とのデマをネット上で流され名誉を傷つけられたとして、東京の会社経営の女性が愛知県豊田市の元市議(58)に慰謝料など110万円を求めた訴訟の判決が17日、東京地裁であった。
田中寛明裁判長は名誉毀損(きそん)を認め、元市議に33万円の賠償を命じた。
引用元:朝日新聞デジタル
インターネット上の掲示板に、自分になりすまして投稿され肖像権などを侵害されたとして、長野県在住の男性が大阪府枚方市の男性に723万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が30日、大阪地裁(北川清裁判長)であった。
判決は「社会的評価を低下させ、名誉権を侵害した」として被告側に130万円の支払いを命じた。
引用元:朝日新聞デジタル
②名誉回復措置
慰謝料などによる金銭での損害賠償だけでは不十分だと言える場合は、毀損された名誉を回復するために、誹謗中傷の被害者に対して名誉回復措置として謝罪文の掲載を請求することが可能です。
不法行為については、金銭によって賠償するのが原則となっていますが名誉毀損については例外的に「名誉を回復するのに適当な処分」を求めることができるのです。
誹謗中傷に当てはまる例文
自分では誹謗中傷の線引きが難しいと思う方のために、ここからは誹謗中傷に当てはまる例文について説明していきます。
以下のような例文はすべて誹謗中傷に当てはまる可能性が高いと言えます。日頃自分が発信している内容が誹謗中傷に当てはまっていないか注意しながらご覧ください。
誹謗中傷に当てはまる可能性が高いといえる例文
- ○○病院の医院長は受付の○○さんと不倫しているらしい
- ○○学校に通う○○君の親は、銀行強盗をした元犯罪者らしいよ
- 女優の○○さんは、反社会勢力の○○組と関わっているらしい
- 新入社員の○○さんは、本当にバカなんだよね
- モデルの○○さんって、本当ブサイクで気持ち悪い
- ○○部に所属している○○さんは、アホっぽい顔をしているから家族もアホなんだろうね
- ○○投資会社は、客が損をする金融商品しか勧めてこないらしい
- ○○会社の社長は、過去に詐欺で荒稼ぎしたらしい
- ○○レストランは、客が残した食べ物を使い回している
- ○○病院は、ヤブ医者しかいない
また、「お前は会社のお荷物だ!さっさと消えろ!」という比較的重い暴言も誹謗中傷になりますし、「お前みたいなアホは必要ない」という比較的軽い暴言も誹謗中傷になります。
よく「有名人や著名人に対しては誹謗中傷しても良い」と思っている人が一定数いますが、有名人であっても一般人であっても誰かに対して誹謗中傷する行為というのは許されません。
ざっくりとはしてしまいますが「悪口」のほとんどが誹謗中傷に当てはまるので注意しましょう。
批判の定義と例文
次に、誹謗中傷とよく混同されがちな「批判」という言葉の意味や例文について具体的に説明していきます。
批判とは物事を判定したり評価したりすること
批判とは、物事の真偽や可否を検討し、それに対して判断や判定を行うことを指します。
批判とは?
批判とは、特定の物事を判定したり評価したりすること。
基本的には上記の意味で使われることが多いですが、他には「言動や行動の誤り・欠点を指摘して、正しい答えを論じること」や「認識や学説の基盤を研究して、物事が成立する条件を明らかにすること」という意味も持ち合わせています。
また、一般的に「批判」という言葉は悪い表現として使われますが、特定の物事を判定したり評価したりすることという意味を持っているので、良い意味でも使われることがあります。例えば、「○○に○○というやり方を加えると最も良くなるはず」という言葉も場合によっては、批判として捉えられます。
批判に当てはまる例文
ここでは、「批判」に当てはまる文章の例を説明していきます。例えば、以下のような例文はすべて「批判」に当てはまる可能性が高いと言えます。
批判に当てはまる可能性が高いといえる例文
- AプランよりもBプランで物事を進めた方が良いのではないでしょうか?
- ○○さんの意見は違う!○○すべきだ!
- その意見は差別的だと思います!○○という表現にした方が良いと思います
- ○○だから○○という考えは甘い!○○という考えも持つべきだ!
- その視点だけでは落とし穴がある!○○という視点を持つべきだ
- 貧困問題は○○が原因だというが、○○という原因もあるのではないか?
- ○○という課題を解決するためには、○○を導入してみる必要がある
- ○○を改善すれば、売上がアップするのではないか?
このような「批判」に関しては、ディベートや会議などでよく使われます。
日本では表現の自由が認められている
誹謗中傷や批判がどのような行為を指しているのかを解説しました。実は、インターネットでの誹謗中傷が深刻化しているため、誹謗中傷を取り締まるための規制を強化する動きが高まっていることをご存知でしょうか。しかし、日本国憲法では「表現の自由」の保障がされています。あまりにも過度な規制強化は、表現の自由を侵害しかねないため、誹謗中傷と批判についてきちんと線引きを行わなければいけません。
日本国憲法第21条1項「表現の自由」
表現の自由とは、日本国憲法第21条で認められている国民の権利のことです。第1項には、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」あります。そして第2項には「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」とあります。
憲法では、思想や良心の自由など内心の自由も保障されています。それらは、外部に表現されて社会的な意味を保つため、自らの精神活動を表現するために表現の自由が保障されていなければなりません。
誹謗中傷と批判の線引きは「人格攻撃をしているかどうか」
これまで、誹謗中傷と批判の概要や例文などを具体的に説明してきました。誹謗中傷と批判の違いを何となく理解できたという人もいるかと思いますが、まだ良く分からないという人も多いと思いますので、ここでは誹謗中傷と批判の違いについて具体的に説明していきます。
まず結論から言いますと、誹謗中傷と批判の線引きは「人格攻撃をしているかどうか」というところです。まず、それぞれの定義をおさらいしてみましょう。
誹謗中傷と批判の定義
- 誹謗中傷とは、虚像の情報や具体的な理由がない情報で特定の人物を罵り貶め、嫌がらせや悪口を発すること。
- 批判とは、特定の物事を判定したり評価したりすること。
つまり、特定の人物の人格を否定したり侮辱したりした場合に「誹謗中傷」という言葉が使われ、場合によっては相手に損害や被害を負わせることもあります。それに対して、特定の人物の人格を否定したり侮辱したりせず、発言や行動を判定・評価した場合は「批判」という言葉が使われます。
具体例を取り上げながら、さらに詳しく説明していきましょう。例えば以下のようなやり取りがあったとします。
例文
- 「お前は何をやらせてもだめだ!本当に使えないゴミみたいな人材だ!」と上司に言われた
上記の文章は「ゴミみたいな人材」と被害者の人格を否定していますので、この例文は誹謗中傷として扱われます。反対に、以下のようなやり取りがあったとしましょう。
例文
- 新入社員Aさんは、上司に「いやいや、その考えだとだめだ!もう少し○○な考えを持たないといけないだろう」と言われた。
まず、上記の文章を見て分かるのは「上司は新入社員Aさんの人格を否定していない」ということです。その上で、新入社員Aさんの考えを判定・評価していますので、上記の例文は誹謗中傷ではなく「批判」として扱われます。
したがって、「相手の人格を否定した」場合は誹謗中傷で、「相手の人格を否定していない」場合は批判であるということが言えます。
誹謗中傷や批判を行なった人物を特定することは可能
インターネット上に書き込まれた誹謗中傷や批判は、誰が行なったのか特定することが可能です。誰が行なったのかを特定するためには「発信者情報開示請求」を行う必要があります。発信者情報開示請求とは、インターネット上で個人や企業・団体などに対して誹謗中傷を行った人物を特定するための手続きを指します。プロバイダに対して、これらの発信者情報の開示を求めることができます。
- 氏名
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- IPアドレスとポート番号
- インターネット接続サービス利用者識別符号(i-mode IDなど)
- SIMカード識別番号
- タイムスタンプ
誹謗中傷か批判かわからない場合はまず相談を
「私は誹謗中傷や批判とは無縁だから大丈夫」だと考えていても、思わぬところで誹謗中傷のターゲットになる可能性は十分に考えられます。言葉の暴力とも言える誹謗中傷行為を受けると、精神的にも辛いものです。万が一、誹謗中傷や批判とももらえられる攻撃を受けた場合は1人で抱え込まずに以下の相談窓口へ連絡するようにしましょう。
- 弁護士
- 都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口
- 誹謗中傷対策専門企業
①弁護士
インターネットでの誹謗中傷行為などを専門としている弁護士に相談を行うことで、自分が受けている行為が誹謗中傷なのか批判なのかを判断してもらうことが可能です。相談に行く際は、該当箇所の書き込みをスクリーンショットや印刷して持参することで、正確な判断を仰ぐことできます。
また、弁護士に相談をすることで誹謗中傷の書き込みの削除、発信者情報開示請求を行ってもらうことができます。誹謗中傷行為の削除や一連の対応も全てお願いすることができるので、相談者のストレスはかなり軽減されることとなるでしょう。しかし、弁護士に依頼を行うと数十万円単位の弁護士費用が必要となるので注意が必要です。初回の相談は無料という弁護士事務所もありますので、活用してみても良いと思います。
②都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口
誹謗中傷の被害を受ける中で、万が一身の危険を感じる場合や犯人を処罰してほしい際は最寄りの警察署や都道府県警察本部にあるサイバー犯罪相談窓口に相談をしましょう。もちろん、この時も誹謗中傷や批判行為を受けているとわかる、スクリーンショットや該当箇所を印刷したものを持参するようにしましょう。
③誹謗中傷対策専門企業
誹謗中傷対策を専門としている企業は、以下のように弁護士や他の相談窓口とは違った対応を取ってくれます。
- ネガティブ記事の対策
- 口コミサイト・転職サイトの対策
- サジェスト&関連キーワード対策
- 名誉毀損、プライバシー侵害
- SEO対策
- TwitterやFacebook等のSNS対策
誹謗中傷の記事や書き込みを削除するために動く弁護士とは違い、誹謗中傷のプロフェッショナルは、しっかりと対策を取ることで誹謗中傷問題を解決に導く方法を取ってくれます。弁護士は誹謗中傷の削除を行なってくれますが、削除をしても新たに書き込みがされてしまうと、苦労して削除した意味がありません。
しかし、誹謗中傷対策を得意とする企業に依頼をすることで書き込みを削除する対策ではない方法でネガティブ記事の対策を行なってくれます。良質な記事の作成も行なってくれますので、SEO対策も安心です。
【まとめ】誹謗中傷と批判の違いについて正しく理解しよう
この記事では、誹謗中傷と批判の違いについて具体的に説明してきました。最後にもう1度おさらいしておきましょう。
誹謗中傷と批判の違いまとめ
- 誹謗中傷と批判の違いは「相手の人格を否定しているかどうか」
- 誹謗中傷は「相手の人格を否定している」
- 批判は「相手の人格は否定せず、物事を判定・評価している」
相手の人格を否定した場合は、誹謗中傷になるのですが、度を超えた人格否定は名誉毀損罪と侮辱罪、そして脅迫罪など様々な罪に問われる場合もあります。罪に問われない場合でも、多額の慰謝料を支払うことにもなりかねません。「これくらい大丈夫だろう」などと思わずに、第3者を傷つけるような行為は行わないようにしましょう。
万が一、あまりにも酷い誹謗中傷を受けている場合は、誹謗中傷行為を行ってくる相手を特定することも可能ですし、損害賠償請求をすることもできるかもしれません。誹謗中傷を我慢する必要はありませんので、誹謗中傷の被害に遭ってしまった場合は近くの弁護士か警察、誹謗中傷対策専門の企業に相談するようにしましょう。