「ネットで誹謗中傷を受けているが損害賠償や慰謝料を請求できる?」
「誹謗中傷で貰える損害賠償金や慰謝料の相場は?」
「誹謗中傷で損害賠償金を受け取る方法は?」
今回は、ネットで誹謗中傷被害に遭った際に受け取れる損害賠償金や慰謝料についてご紹介します。
インターネットが日常生活から切り離せない現代。誰でも指先1本で情報を発信できるようになり、SNSやネット上での誹謗中傷被害が増加傾向にあります。また、昔は有名人のような知名度のあるごく限られた人がターゲットとなっていたのに対し、現在は誰でも被害に遭う可能性があります。
『これって損害賠償を請求できる?いくらが相場?』『そもそも誰に相談すれば良いの?』といった悩みを解決していきます。誹謗中傷でお悩みの方は、ぜひ参考にご覧ください。
もくじ
損害賠償・慰謝料の意味と請求方法
誹謗中傷による損害請求と慰謝料について詳しく見ていく前に、「損害賠償」と「慰謝料」の違いと、それぞれの請求方法について見ておきましょう。
損害賠償の内容と請求方法
損害賠償とは、『他人に損害を与えた者が、被害者に対して損害を補償する』といった意味を持ち、他人の行為によって生じた損失に対し、損失を回復するために支払われるお金です。
損害賠償の事例
- 物が壊れた
- ケガ・病気をした
- 精神的苦痛を受けた
- 経済的な損失が出た
誹謗中傷の場合だと、「デマが拡散されて集客や売上が落ちてしまった」「周囲の目が気になり日常生活を送るのが困難になった」といったケースで損害賠償請求が認められた事例があります。
損害賠償の請求方法は、示談交渉から開始し、解決に至らない場合は裁判所での調停に進むという流れが一般的です。
慰謝料の内容と請求方法
慰謝料とは、精神的損害に対する賠償のことです。つまり、損害賠償という大きなくくりの中にある、精神的な苦痛に特化した賠償金になります。
慰謝料の事例
- 身体的特徴を侮辱された
- 自由を侵害された
- 名誉を損なった
- 氏名や顔写真などを無断で拡散された
- 不貞行為をされた
- 生命の危険を感じた
- 平穏な生活を侵害された
誹謗中傷の場合だと、「無断で自分の顔写真や名前をSNSで拡散されて苦痛を感じている」「勝手に事件の犯人に仕立て上げられ苦痛を感じている」といったケースで慰謝料の請求が認められました。
慰謝料の請求方法も損害賠償請求と同じく、まずは示談交渉で解決を目指していきます。示談交渉で解決に至らない場合、裁判所を介して調停にて解決を目指します。
誹謗中傷を訴える手順については下記のページで詳しく解説しています。あわせてお読みください。
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ネット誹謗中傷で損害賠償・慰謝料請求できるケースと金額相場
ネットでの誹謗中傷で損害賠償や慰謝料を請求できるケースについて、詳しく見ていきましょう。
ここでは、民事裁判・刑事裁判も視野に入れ、4つのケースをご紹介します。
- 名誉毀損
- 侮辱
- 信用毀損
- 脅迫
それぞれ解説していきます。
①名誉毀損の金額相場とケース
【名誉毀損】損害賠償・慰謝料の金額相場
個人…10万円〜50万円程度
事業者…50万円〜100万円程度
名誉毀損とはその名の通り名誉を傷つける行為で、刑法230条で定義されています。つまり、被害の状況によっては損害賠償や慰謝料といった民事にとどまらず、懲役や禁錮などの刑事罰が課せられます。
刑法230条
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」
損害賠償や慰謝料の金額相場についてですが、刑事罰においての罰金は上記の通り50万円以下と規定されています。一方、民事の場合はこれを上回る金額を請求することも可能で、特に企業などの事業者に対する誹謗中傷被害では50万〜100万円が相場となります。加えて、売上低下・社員の離職・雇用の減少といった経済的損失が発生していれば、本来であれば得られるはずだった被害額に対しても損害賠償請求をかけられます。
名誉毀損に該当する誹謗中傷のケース
名誉毀損は「公然と事実を摘示」しているかどうか、が重要な判断材料となります。不特定多数の人が閲覧する可能性を持つネットでの発信は「公然」に該当するのですが、問題点は「事実を摘示」というポイントにあります。
例えば「バカ」「アホ」というような発言・投稿は後述する侮辱行為にあたり、名誉毀損にはなりません。
【名誉毀損】該当するケース
- Aさんは○○事件の犯人だ
- AさんはBさんと不倫している
- Aさんは刑務所に入っていたことがある
- Aさんが会社の金庫からお金を盗んだ
ここで言う事実とはウソ・ホントではなく「出来事」を指しますので、真実か否かは問われません。本当の出来事であっても個人の名誉に関わるような出来事がネット上で拡散された場合は、名誉毀損として扱われます。
また、名誉毀損による被害状況までは考慮に入らず、たとえ誹謗中傷によって売上が低迷しなくとも名誉を毀損されたのであれば名誉毀損として扱われます。
②侮辱の金額相場とケース
【侮辱】損害賠償・慰謝料の金額相場
個人…数千〜10万円程度
事業者…数千〜10万円程度
侮辱とは、人を見下し、さげすむ行為です。侮辱行為は刑法231条に定められており、刑事裁判で有罪判決がなされると拘留や科料といった刑事罰を受けることになります。
刑法231条
「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」
拘留と科料は比較的軽度な刑罰となっており、現在の法律では拘留期間30日未満、科料は1万円未満に制定されています。現在、侮辱の厳罰化に向けて法整備が進められ、新しい法律が制定されると「1年以下の懲役・禁錮」「30万円以下の罰金」に変更されます。
法改正が実施されるまでに発生した侮辱や、法改正にまたがって発生した侮辱には、刑法6条の規定によって軽い方の刑罰が科せられます。
また、民事上の損害賠償・慰謝料についても名誉毀損に比べて金額が低くなり、10万円程度が相場となります。
侮辱に該当する誹謗中傷のケース
侮辱行為と判断されるポイントは、「公然と人を侮辱」しているかという点です。拡散性の高いSNSや閲覧数の多い掲示板等においての侮辱発言・投稿は不特定多数の人が目にする可能性が高く、『公然』に該当すると判断されます。
【侮辱】該当するケース
- Aさんはブスだ
- Aさんはデブだ
- Aさんは頭が悪い
- Aさんは死んだ方が良い
侮辱行為に該当しないケースとしては、メールやDMといった個人的なやりとりができるツールで侮辱された場合や、直接言われた場合です。ただし、人がたくさんいる状況下で侮辱されたのであれば『公然』とみなされます。
③信用毀損の金額相場とケース
【信用毀損】損害賠償・慰謝料の金額相場
個人…10万円〜50万円程度
事業者…10万円〜数百万円以上
信用毀損(きそん)とは、嘘や悪意ある行為で人の信用を毀損する行為です。信用毀損も刑法233条で定められており、懲役刑や罰金刑が科せられます。
刑法233条
「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
名誉毀損はウソ・ホントは問わないのに対し、信用毀損は完全なるデマの拡散ということもあり、刑罰が重くなる傾向があります。
損害賠償・慰謝料の相場については、刑事上で50万円以下、民事上では10万円〜50万円程度が相場となりますが、大企業などの信用を毀損した場合は経済的損失が多額になりますので、過去には1,000万円以上の損害賠償請求が成立した事例もあります。
信用毀損に該当する誹謗中傷のケース
信用毀損と名誉毀損の大きな違いは、デマかそうでないかという点の他に、傷ついた対象が『名誉』か『信用』といった対象にもあります。信用とは経済活動における社会的信用を指しますので、経済損失を発生させる目的が認められ、損害賠償請求額も多額になる傾向が見受けられます。
【信用毀損】該当するケース
- 「A社の商品に異物が混入している」というデマの拡散
- 「A社は倒産する」というデマの拡散
- 「A社代表は自己破産した過去あるので融資すべきではない」というデマの拡散
上記のようなデマをSNSや掲示板等に投稿するだけでなく、実際に商品等へ異物を混入して警察へ被害届を提出し、さも本当だったかのように偽計(あざむく行為)をすることも信用毀損にあたります。
さらに、被害を受けた個人や事業者が申告しなければ罪に問われない名誉毀損や侮辱に対し(親告罪)、信用毀損は被害者が告訴しなくとも成立する犯罪です。
④脅迫の金額相場とケース
【脅迫】損害賠償・慰謝料の金額相場
個人…20万円〜100万円程度
事業者…20万円〜数百万円以上※
※基本的に法人に対する脅迫は業務妨害になるケースが高い
脅迫とは生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加える行為で、刑法222条にて犯罪行為と規定されています。罰金だけでなく、刑罰で2番目に重い懲役刑が科せられる可能性もあります。
刑法222条
「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」
損害賠償・慰謝料については、刑事上で30万円以下、民事上では20万円〜100万円がボリュームゾーンとなりますが、悪質度合いによっては100万円以上の損害賠償・慰謝料請求が認められるケースもあります。
一般的に脅迫は個人を対象とした行為になるため、事業者に対しての脅迫は基本的に業務妨害罪が対象となります。
例えば、「○○社の工場ラインを停止しなければ、代表Aを殺す」といった脅迫投稿であれば、Aさんに対する脅迫と会社に対する業務妨害罪に該当する可能性があり、数千万円レベルでの経済損失が発生する可能性もあるでしょう。
脅迫に該当する誹謗中傷のケース
脅迫に該当するか否かは、内容が具体的かどうか・加害対象が特定されるかどうかという切り分けがポイントとなります。
脅迫として認められるのは「内容が実行可能なもので具体的」「加害対象がある程度特定できる」ケースとなります。
【脅迫】該当するケース
- 「Aを殺しに行く」といった発言・投稿
- 「Aを殴りに行く」といった発言・投稿
- 「Aの自宅に火を付ける」といった発言・投稿
脅迫と認められないケースは「呪い殺す」「不幸になれ」というような、抽象的で実現不可能な発言・投稿です。
先ほど基本的に法人は脅迫の対象とならないとお伝えしましたが、「A社を爆破する」「A社に毒ガスをまく」といった脅迫は社内にいる人の生命に関わる問題となりますので、脅迫罪として認められる余地もあるでしょう。
【2選】誹謗中傷による損害賠償請求の事例
最後に、誹謗中傷の被害によって損害賠償が請求された事例をご紹介します。
- デマ拡散で33万円の損害賠償請求
- 名誉毀損で191万9686円の損害賠償請求
なお、一例目は個人がすぐに特定できる例であるのに対し、二例目は匿名での投稿のため個人を特定するまでに50万円〜100万円程度の費用が発生しているものと思われます。解決にむけて発生した弁護士費用等も損害賠償に含めることが認められますので、実費が含まれた金額だという認識で読み進めてください。
①デマ拡散で33万円の損害賠償請求
2019年8月、茨城県の常磐自動車道で発生した煽り運転事件にて、同乗していた女性の雰囲気に似ていることから事件とは無関係の女性の個人情報がSNSで拡散されました。
この拡散を見た愛知県豊田市の元市議が自らのFacebookアカウントで「早く逮捕されるよう拡散お願いします」という文言と共に拡散。東京地裁で名誉毀損が認められ、33万円の損害賠償命令が出されました。
こちらの女性は自身のInstagramアカウントにも1,000件を超える誹謗中傷DMが届き、悪質な投稿やDMに対して投稿者の開示請求申し立てを実施、和解交渉にも応じているとのことです。
②名誉毀損で191万9686円の損害賠償請求
2017年7月、インターネットの匿名掲示板にて、プロ野球選手の妻と当時1歳にも満たない子供に対し度重なる誹謗中傷が相次ぎ、選手は度を超えた投稿を行った人物を特定。損害賠償として191万9686円を請求しました。
当初は訴訟に持ち込まず損害賠償支払いでの和解を目指していたものの、代理弁護士からの連絡に対して音沙汰がなかったため、裁判での解決を目指すと発表がありました。
匿名掲示板であってもIPアドレスからプロバイダを解析し、発信元を特定することが可能です。投稿者を特定する手順については下記のページを参考にご覧ください。
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【まとめ】誹謗中傷による損害賠償額はケースバイケース
誹謗中傷による損害賠償金額は、被害状況・損害額・かかった費用など、様々な要素を考慮して決定します。
示談交渉時、損害に見合わない法外な金額を請求してしまうと、減額の交渉や根拠の提示などが求められます。
いずれにせよ、誹謗中傷被害で損害賠償請求を行う際は誹謗中傷事案に強みを持つ弁護士に相談しながら、解決に向けて進めていくのが良いでしょう。